11代目のブログ

鬆(す)

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 先回の蕎麦、それは診療所の後に行った。

 診療所の前にあるところを訪れた。少し予約時間に早かったから、思いたっただけだ。

 それは豆腐を売っている商店である。静かにたたずむ商店街の一角で、おばあさんが店を守っている、という。

 家人が見つけた店だから、全く知らない。


 豆腐は〇〇郎?(屋号か?)豆腐といって、結構この狭い地域では愛されているようだ。最近、廃業の危機にあったようだが、何とか事業は継続されたようだ。
 なにしろ田舎であるし、廃業の危機にあったくらいだから週2、3回しか作らないみたいだが、その辺の詳しいことは知らない。
 その看板もない豆腐製造店の目の前にそこも看板なし(古い入口のガラスには店名があるが・・)のおばあさんの古風な店がある。

 いつもは家人がこの近くの医院に通っている。そして帰りに、この店によって豆腐か焼き豆腐を買って家に帰ってくる。


 当日、家人がどこか出かけるということを聞いていたが上の空だった。

 時間も持て余し気味だったのと焼き豆腐の煮物を食べたくなって、おばあさんの店に初めてよった。

 「こんにちわ」というが声はすれども姿がない。店の奥に進むと、おばあさんは奥の机の蔭から出てきた。八十台か。髪の毛は真っ白だが、健康そうである。
 左手の壁際には、立派な大根が2本、白くテカテカして置いてあった。品物も結構種類が多い。食料品全般、少量だけど。近所の人が手軽に買いに来るような感じを受けた。
 「豆腐欲しいんだけど」というと、店の真ん中に立っている60cm角で高さ1.8mくらいのガラス張りの保冷庫のドアを開けて、豆腐を取り出し、値段をいう。いや、『それじゃない』と思い、「焼き豆腐下さい」というと「はい、330円」といってまた取り出す。
 そんなに豆腐ばかりも要らないと思い、「焼き豆腐だけね」というと、ちょっと残念な様子。「いつも家人が買いに来るので、寄ってみた」と話すが、何も反応はない。

 小さな薄いポリエチレンの袋を取りだし、風呂敷包みのように持ち手まで作って包装してくれた。
 風呂敷包みで持ちやすくなった焼き豆腐を持ってほくほくした気持ちで車に戻った。

 あっという間に注射も終わり、前に書いた田舎蕎麦を食べ、満足してドライブして家に戻ったが、途中で家人の車とすれ違ったような気がしたが、人違いかもと思い、気にもしていなかった。

 夕方近く、家人が戻ってきた。その時、車に焼き豆腐をのせっぱなしに気がついた。「アッ、車に焼き豆腐を乗せっぱなしだった」と声を出すと、家人は「エッ、私豆腐を買ってきたわよ、いつもの店で」という。

 おばあさんには「昨日だかしら、旦那さんが豆腐買いに来たみたい」といわれたらしい。『今日が昨日になってしまっているなあ』と思うが、人はそんなものかも知れないと思い直す。

 結局、豆腐は衣でつつんで天ぷらで揚げ、買った日と次の日で美味しく食べた。
 焼き豆腐は、次の日に薄い出汁醤油でゴトゴト長時間煮て、思いどおりに数日楽しんだ。

 おばあさん曰く、「コトコト煮ると鬆(す)が入るから、そこにだし汁を吸い込ませる」んだよと、手ほどきを受けていたという。

 実は、私はみそ汁が好きだが、家人は具の豆腐は通信販売の長期保存のパック版を常用。麻婆豆腐もそれを使う。

 それはそれで便利だろうが、手造り豆腐は品格が違う。

 そう『これ日々好日』かと・・・。 

写真:このあいだの田舎蕎麦  (2023年10月撮影)2023.10.18日記